ほ乳類以外では未確認だった母親パワー
ヒトやクジラなどの知能の高いほ乳動物は、繁殖能力を失った後(ヒトなら閉経後)も長く生存する特徴がある。繁殖終了後も長く生存することが進化的に維持されているのは、これまでに解明されていない大きな謎であった。
近年の研究では、ヒトの本繁殖能力消失後の長命は、孫の養育など
血縁者の繁殖を助けることにより進化的に維持されているという「おばあちゃん仮説」が提唱されている。この傾向が見られたのは
ほ乳類の社会性動物のみで、それ以外の動物に関しては詳細に調べられていなかった。
社会性アブラムシの自己犠牲
そこで東京大学大学院総合文化研究科は、社会性アブラムシであるヨシノミヤアブラムシを研究対象とした。
この種が形成する虫こぶは1匹の個体が単為生殖によって増殖し、最終的には数千匹を収容する巣のような構造になる。このため、虫こぶに生息する虫たちはすべて同じ遺伝子を持ったクローンの集団となる。
このヨシノミヤアブラムシにおいて、無翅成虫が虫こぶの中に侵入する捕食者に対して
自己犠牲的な防衛行動を行うことを発見された。この無翅成虫は、外敵(テントウムシの幼虫など)から攻撃を受けると粘着液を分泌して体ごと外敵にくっつき、虫こぶ内への侵入を阻害するのだ。
しかし一度くっつくと離れられないため、自身の命と引換えに血縁者を守る自己犠牲的行動であることがわかる。そしてこの行動をとった無翅成虫を調べると、ほぼすべての個体が
出産済みであったという。
これらの調査結果は、同じくヒトの女性が繁殖終了後も長く生存するヒト社会の進化に新たな洞察を与える成果となった。自分を犠牲にしてでも子を守るという情とも本能ともとれる行動は、種を越えても存在するということだろう。
東京大学